研究概要

統計科学

統計的推測理論,ベイズ理論,統計モデル選択,情報幾何学などを通して,統計的モデリングの方法について理論と応用の両面から研究しています.

予測理論の研究

手元のデータをもとにした予測をおこなうことは,統計の基本的な問題である.ただ1つの予測値による予測よりも,確率分布を使って予測する方が応用上より有効である.どのようにすれば性能のよい予測分布を構成できるかは,ベイズ理論,モデル選択などと本質的に関連している.これらの予測に関する手法の研究には情報幾何学的な方法が有用である.

脳科学における統計的モデリング

脳科学に関するさまざまな分野の研究者と連携して研究を行っている.データの特徴に応じて適切な統計モデルを構築し,データ解析に役立てている.たとえば,点過程モデルを用いた神経スパイクデータや脳波データの解析,状態空間モデルを用いた時系列データの周期成分分解と位相推定の手法の開発などを行ってきた.

情報幾何学

情報幾何学は統計学および情報理論などに現れる推定量の振る舞いや分布の距離などを,リーマン幾何学を用いて直観的に捉えるための学問です.ベイズ統計における事前分布の選択や機械学習,符号理論,量子情報理論など幅広い分野に応用されています.

方向統計学とホロノミック勾配法

球面や回転群など,ユークリッド空間とは異なる空間に値を取るデータを扱う統計学のことを方向統計学という.方向統計学で用いられる統計モデルには,解析的に計算できない高次元の積分がしばしば現れる.そのような場合でも,ホロノミック関数というクラスであれば,積分のための計算量が軽減される場合がある.この方法(ホロノミック勾配法)を具体的な統計モデルに適用し,その性質を調べている.

最適輸送を用いた統計モデル

統計モデルに現れる「積分」を避けるためのもう一つの考え方として,変数変換を用いるというアイデアがある.特に最適輸送写像という変数変換を用いると,比較的計算しやすい統計モデルが得られる.ただし,モデルを解釈しにくいという欠点もあり,その可能性と限界を調べている.

地震津波災害情報統合

地球規模のリアルタイム観測ネットワークや、超高並列計算機による 数値シミュレーション技術が発達した現代の科学技術をもってしても、 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では 被害の拡大を食い止めることができなかった。いずれまた必ず発生する大地震から 可能な限り多くの人命と財産を守るために、地震・津波・災害に関連した 観測およびシミュレーションによる膨大なデータを、データ同化を始めとする 統計学的手法によって余すところなく統合することにより、総合的な知見を 創出することを目指している。

データ同化

数値シミュレーションと観測・実験データを、ベイズ統計学の枠組みで 統融合するための基盤技術であり、シミュレーションモデルに含まれるパラメータ および各時刻における状態を逐次推定しながら、将来予測が可能な シミュレーションモデルを創出することができる。主に気象学や海洋学で 大きく発展を遂げ、例えば日々の天気予報はデータ同化そのものであり、 予報円(確率密度関数)付きの台風の進路予測は、データ同化の結果が 端的に表れた好例と言える。気象学とは異なる観点から、地震や津波に 代表される固体地球科学に資するデータ同化技術の構築を目指している。

4次元変分法(高速自動微分法)

気象予報を始めとする大規模な数値モデルに基づくデータ同化では、主に「4次元変分法」(高速自動微分法)と呼ばれる手法が用いられているが、従来の4次元変分法は、予測結果の不確実性を評価することが原理的にできなかった。例えば、台風の進路予測でしばしば用いられる予報円は、中心位置の予測に関する不確実性を表現したものであるが、これは4次元変分法とは異なる手法を用いて算出されている。そこで、「2nd-order adjoint法」と呼ばれる手法を導入することにより、予測結果の不確実性評価が可能な新しい4次元変分法を開発した。大規模数値モデルに基づくデータ同化の場合でも、異なるデータ同化手法をアドホックに組み合わせることなく、この新手法によって予測およびその不確実性評価を統一的に実施することが可能となった。