統計学輪講 第6回

日時 2026年05月19日(火)
14時55分 ~ 15時45分
場所 経済学部新棟3階第3教室
講演者 田川 颯人 (経済D2)
演題 ネットワーク干渉があるときのStaggered DIDの識別と推定
概要

差の差法(DID)は政策評価に広く用いられてきたが、介入タイミングが異なる staggered DID では、処置効果の動学性や異質性に加えて、比較群の選び方が重要になる。近年の研究は、処置タイミングの違いに起因する推定上の問題を整理してきた。一方で、政策がネットワークを通じて周辺地域や関連主体に影響する場合、未処置群であっても他の処置単位からのスピルオーバーを受ける可能性がある。このとき、未処置であることと未曝露であることは一致せず、従来の処置群対未処置群の DID推定量は、自己処置の効果、処置後のスピルオーバー、比較群へのスピルオーバー、ベースライン時点の曝露汚染を混合し得る。

本研究では、exposure mapping を用いて、ネットワークを通じたスピルオーバーが起きる場合の staggered DID における政策効果を整理する。具体的には、実現した曝露状態を固定して自己処置を切り替える動学的切替効果(DSE)、自己処置がない状態で他単位の処置から受けるコントロール状態スピルオーバー効果(CSE)、および純粋な未処置・未曝露状態と実現した処置・曝露状態を比較する動学的総効果(DTE)を定義する。識別については、従来の平行トレンド条件を曝露状態に条件づけた形へ拡張することで、これらの対象を識別できることを示す。さらに、得られた識別結果に基づき、DSE と CSE の推定や推論の方法も提案する。

モンテカルロ実験では、スピルオーバーを無視した既存のDID推定量にバイアスが生じる一方、提案手法では安定して推定できることを確認する。実証分析では、 Community Health Centers の導入が高齢者死亡率に与えた影響を再検討する。提案手法を適用すると、政策導入による効果に加えて、近隣地域の導入から受けるスピルオーバーも生じていた可能性が示される。これにより、ネットワークを通じた政策波及が存在する場合には、従来のDID推定量を単一の政策効果として解釈することに注意が必要であることを示す。