統計学輪講 第10回

日時 2025年06月24日(火)
15時45分 ~ 16時35分
場所 経済学部新棟3階第3教室 および Zoom
講演者 阿部 祥太郎 (情報理工M2)
演題 ヘルムホルツ・ニューラルオペレーターを利用した3次元地震伝播シミュ レーション(文献紹介)
概要

地球科学において、地中の波動伝搬を正確にシミュレーションしたり、観測された地震波動データから地下構造を推定することは、地震発生メカニズムの解明や防災・減災の観点から極めて重要な課題である。特に、地殻のような弾性体中を伝わる波動は、Navier 方程式と呼ばれる偏微分方程式に従うことが知られており、これを数値的に解くことで地震波の伝搬を再現することが可能となる。従来のアプローチでは、シミュレーション領域をグリッドに離散化し、有限要素法(FEM)や有限差分法(FDM)などを用いて波動伝搬を解析してきた。しかし、グリッドを細かくするほどメモリ消費量や計算時間が指数的に増加し、特に波長の短い高周波成分や複雑な地形を含む領域においては、十分な精度を確保することが困難であった。
本発表では、こうした制約に対処する新たなアプローチとして、ニューラルオペレータ(Neural Operator, NO)を用いた地震波動シミュレーション手法を紹介する。ニューラルオペレータとは、関数空間上の写像、すなわち偏微分方程式の解空間そのものを学習対象とする機械学習モデルであり、入力関数から出力関数への変換を直接学習することができる。紹介する研究では、Navier 方程式をフーリエ変換して周波数領域に定式化し、得られる Helmholtz 方程式をニューラルオペレータに学習させることで、時間領域における波動伝搬問題を効率的に解く手法が提案されている。さらに本手法は、従来のグリッド依存型モデルとは異なり、異なる分解能や未学習の条件に対しても高い汎化性能を示すことが実験的に確認されている。